職住近接はとても疲れるのである
杉崎 武彦 さん (株式会社 若松屋商店 代表取締役)


精肉の知識あふれる杉崎さん

会 社 名 株式会社 若松屋商店
主な職種 精肉販売





西隣は出世不動尊





若松屋商店入口
通用口は左の東面にある



且瘴シ屋商店本社社屋

「犢」という字がある。音は「トク」、意味は「仔牛」である。精肉店の看板で「牛、豚、鶏」は見かけるが「犢」はないだろう。若松屋商店以外では。
「仔牛肉」の存在を一般が知ったのは某カレールウ製造業者が「フォンドボゥ」と銘打って商品を出したことだろうか。「犢」は生後8ヶ月位の牛である。「その肉の味はさっぱり、油が少なくて健康食品です。ただ現在の出荷量は一昔前に較べて少なくなりました。日本人の嗜好が変わったんでしょうね」。杉崎武彦さんは言う。
杉崎さんが社長をつとめる若松屋商店は小売の精肉店として昭和9年父の代に旧多町1丁目で開店した。戦後現在の出世不動尊と隣合わせの場所に移転してハム工場を作った。今はハムも小売もやめ、もっぱら食肉を飲食店に卸している。肉種は牛、豚は勿論、注文があればなんでも取り寄せる。長年の経験で食肉の知識は広く、顧客の要求に的確に応えている。


ユニークな看板「  」が書かれている


たとえばアメリカ牛にまつわる話題をひとつ。「柔らかくておいしい」というのが日本人の味覚。しかし、この嗜好は日本限定ですぐ隣の韓国でも「硬くておいしい」のである。

オーストラリア肉は安全だが日本人にはやや物足りない味である。ところが「アメリカの生産者は日本人の嗜好にあわせて日本から和牛を導入し、日本人向けの牛肉を作ったんです」。が、思わBSE問題発生。いま日本は生後20ヶ月の牛に限定し輸入を認めているがこの期の牛は若牛であまり旨くない。肉店としては成熟した生後30ヶ月位のアメリカ牛肉を勧めたいところだが不可能だ。

さて杉崎さんのお楽しみの話。昭和34年ごろ、東京駅八重洲口の得意先であるレストラン経営者が茨城にゴルフ場を開いた。若松屋の先代は会員権を買う羽目になった。しかし、家人は誰も行かない。杉崎さんは当時高校1年だったが一役買った。芝のゴルフ練習場で1年間練習を積み、顧客でもあったそのゴルフ場へ、学校が休みのとき会社の配達車に便乗して赴きハーフを回った。

大学のときはボウリングがはやりだした頃だ。青山の東京ボウリングセンターや渋谷のリキパレスで学生仲間と興じた。このときの仲間とは現在も交流を続けている。名称は「金曜会」という。現在は主に麻雀のお付き合いのようだ。

杉崎さんは酒も達者である。毎晩近所の小料理屋での飲食は欠かせない。これには切実な理由がある。
長距離を通勤する人だったら家路をたどる間、仕事でのトラブルを吐きだす時間があるから、家庭に仕事を持ち込まなくて済む。しかし杉崎さんは違う。階下で仕事を終えて帰途につくのは階上の自宅なのである。
「職住近接は大きな問題なんです」。だから終業後は家を背にし近くの小料理屋に向かう。酒は飲むだけにあらず。家庭円満の秘薬なのである。
                  (2008年2月26日:取材)