ふたつの文化活動を支えています
前田 智彦 さん (合名会社 武蔵野書院 専務取締役)


粋な出で立ちの前田さん。

会 社 名 合名会社 武蔵野書院
主な職種 国語国文関係図書出版
URL http://www.musashinoshoin.co.jp





武蔵野書院旧社屋






神田倶楽部発行の図書



畳敷の応接間を飾る国語関連辞書群



武蔵野書院現社屋

出版は一種の賭け、1冊当たれば大層な利益を上げることもある。しかし、人の心は計り知れない。事前に市場調査をしても、結果は外れることが多い。

武蔵野書院はそういう出版社とは趣を異にしている。あつかうジャンルは国語国文に限定している。
少し詳しく言うと日本語・日本文学・漢文学・古典・国語にかかわる一般書籍である。

創業は大正8年(1919年)、文京区目白台で、創業者は智彦さんの祖父に当たる信氏である。
以来88年間、小説家・学者をサポートし続けてきた。書籍出版での初版部数は最低でも3000部というのが一般。

でも武蔵野書院発刊の学術本に限ると、部数はとても少なく500部である。
読者は国語学関係の学術研究者と図書館ぐらいだからである。発刊する図書も年間およそ10種。

つまりは年間の学術本総冊数は単純計算で5000冊ということになる。
制作費は相応かかるから部数が少ない分、高価な本となる。1冊の価格が1万円を超えることも稀ではない。
5万円というのもある。

「利益というほどは出ません。儲けを意識してできるものじゃありません」。
それでも前田さんは「国語学」出版を続けている。
武蔵野書院は学術の世界で出版という重要な役割を担わなくてはならない存在だからである。
創業者の遺志が社是として生きている。

出版に静かに情熱をささげている前田さんだが、2年に1度約半年以上にわたって豹変する。
情熱を燃やすもうひとつの対象は「神田祭」である。

神田錦町三丁目は周辺の地区と同じく人口が減少している。しかし、神田祭の期間この界隈には熱気が漂う。
それは町会の青年部に負うところが大きい。

青年部は13名で構成されている。
だが地元に残っているのは4、5人。
残りは移転した。
祭りの日は里帰りしてもらうことになっているが、交渉事や資材の購入など事前の準備は地元在住者だけでする。
祭に没頭するしかない。

前田さんは祭りの準備のさなか、「もうやめたい」と思うことがある。
でもそれは祭りの中でいつしか飛んでしまうという。
さらに前田さんは神田祭の更なる発展を願ってつくられた神田倶楽部の会員でもある。

神田倶楽部は神田地区と中央区日本橋地区の有志によって運営されている祭礼研究会で、江戸天下祭を中心とした祭礼文化を調査、研究している。
今ふたつの文化とも誰かが見守っていないと消えかかるかも知れない。前田さんはそうはさせない。その行動の背後には神田っ子の意地があり、前田家に連綿と続く文化継承に対する思いがある。

(2007年7月20日:取材)