“神田村”の村長さんはクラシックマニア
吉見壽文さん(東邦書籍株式会社代表取締役)


大好きなクラシック音楽を語る吉見さん

会 社 名 東邦書籍株式会社
主な職種 各種書籍の取次ぎ





ご自慢のオーディオルームで寛ぐ、
至福のとき




プロ(本屋さん)限定の店内

「取次ぎ」という呼称はこの業界特有のもので、出版社と書店をつなぐ「卸売り」を意味する。この中小の取次ぎが集中する神保町一丁目界隈は“神田村”という愛称で呼ばれる。正式には「東京出版物卸業組合」。吉見さんはここの理事長を10年務め勇退を考えたがもう一期と懇願されて現職。「神田村の“村長”というか組合員18社のまとめ役です」。さて、オフタイムのお話を聞くことにしよう。

 「趣味はいろいろありますが、どれか一つとなると、やはりクラシック音楽でしょうか。これは学生時代からですから、かれこれ半世紀近くになります」。

 三省堂勤務から昭和25年に独立した、創業者の父も叔父もクラシック好き。よくコンサートに連れて行ってもらったそうである。

 「あれは1954年私は学生でしたが、バイオリンの巨匠ハイフェッツを初めて生で聴いた時のこと、飛行機の遅れで延々と待たされた。中止かと思った頃、やっと演奏が始まった。羽田から東京帝國劇場へ直行したらしい。バイオリンを目の高さに上げる独特のポーズで、疲れているはずなんだけど、すごい集中力。顔は真っ赤、額には青筋です。その姿は今でもありありと覚えています」。

 吉見さんの場合、どの作曲家のどの作品が好きというより、演奏家が中心。バイオリンならハイフェッツ、オイストラッフ、グリュミオー。ピアノならバックハウス。それとオーケストラもの。ウィーンフィルが大好きで、コンサートは欠かさず出掛けた。生まれて初めて聴いた時は「体がこわばり、鳥肌が立った」という。それですっかりクラシック音楽の虜になってしまった。

 現在はコンサートより、もっぱら自宅で楽しんでいる。聴き慣れたLPレコードである。自宅を新築する時、思い切ってオーディオルームも作ってしまった。

 「家族を気にして、ボリュームを落して聴くのは嫌ですからね。広さは10畳ほど、入り口のドアには鉛を仕込んでいます。それと床の補強を入念にしました。機材やレコードは相当重いですから。アンプ類、スピーカーは特注品です」。世界に一台しかないオリジナル。真空管はアメリカの軍用品を手に入れた。性能、耐久性が抜群なのだ。カートリッジはデンマーク製。LPレコードのコレクションは約900枚だが、「まだまだ。マニアと言われる人は最低で一千枚」なのだそうだ。

 吉見さんはほとんど毎日。晩酌のあと一、二時間このオーディオルームにこもり、至福の時を過ごす。浮世を忘れ、明日への英気を養うのだ。

 腰を痛めて以来あまり出掛けなくなったが、自然薯掘りも得意技の一つ。「住まいは千葉市の郊外ですけど自然に恵まれていて、朝飯前に山菜取りやバードウオッチングができます」。

 最後に取次ぎ業のなかで“神田村”の果す役割りについて。「仲間がうまい事をいった。“出版の毛細血管”だと。まったくその通りで、細いパイプがあってこそ身体の隅々にまで血がいきわたるのだ、とつくづく思います」。