塩野七生さんの熱烈な読者です
渡辺光悦さん(大東工業株式会社代表取締役)


塩野七生さんを語る渡辺社長

会社名 大東工業株式会社




渡辺社長の蔵書の一部



古代ローマ政治の中心地であったフォロ・ロマーノ



塩野七生著「ローマ人の物語」

 関東大震災の翌年、現在地で創業した父の後を継いで、冷暖房並びに給排水設備工事業を営む渡辺さんは、大変な読書家である。中学、高校時代から、洋の東西を問わず古典と呼ばれる文学作品を読み漁ってきたが、今、熱中している「この人の本」となると、20年程前に出会った塩野七生さんをおいて他にない。

 「最近急に人気が出て、外務大臣の噂まで出るほどの方だけど、本屋で偶然手にした“海の都の物語”。イタリアのヴェネチアの話なのですが、いかに生きるべきかという時、現実を重視すること。時に悪もまた善なりの考え方。通商で生きるしか道がないとしたら、情報が最重要課題になる。そうした切り込み方が新鮮で実に面白く、感銘を受けました」。

 そして、十数年前から毎年一巻、塩野さんが書き続けている、ローマ帝国一千年の興亡を描いた大書、「ローマ人の物語」にのめりこんでいく。今年14巻目、あと一冊で完結するこの物語、大体2、3回は繰り返して読み込んでいる。

 「悪の帝王学とも言われている君主論、目的のために相手によっては時に「信義人道に背くも可なり」というマキャベリの柔軟性ある思想が彼女は好きで、それが“外交”だと述べています。厳しい環境を生き抜いてきた、世界の民の現実だと言うのです」。

 例えば柔道という競技、「日本人はきれいに勝とうとするが、向こうはどんなことをしても勝てばいい。ルールさえ守れば。この違い、それが文化になっている。

 しかし、こうした本から読み取った知恵が、現実のビジネスに生きるのだろうかというと渡辺さんは、「残念なことに、純粋な日本人の私には、解っていてもなかなか出来ないことがある。外交(接待)も下手で、そのジレンマをいつも感じています」。

 渡辺さんの読書は、電車の中と就寝前、これが習慣になっている。いつも鞄の中に何冊かの本がないと落ち着かない。面白いことに暇な時より忙しい時の方が、わずかな時間を見つけて読書がはかどる。「好きなものだから、飢餓感で読んでしまうのでしょうね」。

 それともうひとつ、繰り返し読むという習慣。年齢とともに理解力が落ちたのか、と苦笑するが、昔から“熟読するタイプ”とお見受けした。そして、若い頃に読んだ古典も順次読み直す。

 「トーマス・マン、トルストイ、カフカ。漱石は3年前にほとんど読み直しました。司馬遼太郎も全部。それと、新しいところでは、聖書の解説書。ローマの本を読むにしても、断片的にしても宗教の知識がないと理解できませんから」。

 知り、学ぶためにする読書。これはもう「趣味は読書」の域を超えている。